
株式会社TAT 代表取締役 髙野 芳樹氏にインタビューしました。

▼企業情報
社名:株式会社TAT
設立:2000年10月31日
役職:代表取締役
住所:兵庫県西宮市日野町4-50
URL:https://www.nailtat.com/tatweb/index.do
▼事業内容
ネイル材料の卸し・商品開発
私たちは、ネイリスト、ネイルサロン、スクール、専門学校などに材料を販売しているネイル用品専門商社です。年中無休で全国のお客様に素早く商品をお届けする通信販売が事業の中心になっています。
また、特化したお役立ちオリジナル製品の開発や、自社で取り扱う材料、製品に対する安全性、そしてネイルの技術に関する情報の提供に努めています。
新規事業としては、「お役立ち」のキーワードでネイルサロン、スクールの顧客管理や来店促進などの運営面を助ける「ネイル業界支援業」を展開しています。
わが社はネイルビジネスを通して、お客さま、取引先、スタッフ三者の喜びと感動を共有します。
会社の誕生
僕は神戸学院大学に行ったのですが、家からめちゃめちゃ遠い、しかも何の興味もない法学部に入学することになりました。目的がなかったから当然行くこともなく、一応8単位だけ取って終わってしまいました。
学校行かずに何してたかと言うと、絵描いて個展したりとか、バンドやったりとか、社会不適合者をしておりまして、そっち側の人で何にもなかったです。
当時を今振り返ると、社会が結構暗かったというか。僕47歳なんですけど多分僕らがちょうど大学入ったぐらい、19、20とかの時ってグッドウィルとか、派遣会社がすごく流行ってて、恐ろしい不景気。多分就職氷河期で、ネクタイ締めてスーツ着て働いてる人らが、すごくこう暗く見えたんだと思うんですよね。だからそもそも僕そういうタイプじゃなかったのでサラリーマンだけにはならんとこうと思ってたんですけど、これといって道を決めていなくて好きなことやってた感じなんです。
色々やりましたが、やることもなくなった時にちょうどその頃父の髙野直樹が1998年にネイル用品の卸売りの会社「タカノ・アメリカン・トレーディング」として一人で創業しました。正直言ってやることなかったので「手伝うか」って言われて「嫌やけどいいよ」って返事しました。
やっているうちに色々覚えてくると面白くなってきて、働くことに対する偏見があったんですけど、仕事って面白いんやなとか、楽しいんやなと思えるようになった。
明文化してなかったけど、うっすらとやんわり。この取引先の方々、あとネイリストさんとか、ネイルサロンさんとか、お客さんとかにですね、こんな僕でもありがとうとか感謝される。ちょっと色々覚えてきたら、もっとこうした方がいいんじゃないかってことも色々湧いてきて。
ほんとネイルサロンもほとんどない時代だったんです。父の髙野直樹もビジョンを描いていたとかじゃないんですけど、売上1億ぐらいあれば生きていけるかぐらいの企業やったんです。
サウスウエスト航空のような会社になりたいという思いだけは、それは結構脈々と。
サウスウエスト航空アメリカはLCCの走りの会社で、そこは非常にユニークな経営をしていて父はその本を読んで起業を決意したんです。
ざっくり言うといい会社。文化的な背景から、他社との差別化があります。
今の経営理念は僕が作らせて貰ったんですけど、経営理念には100%偽りないんすけど、そんなことも思ってなかった僕が『あなた、この業界にいてくれてありがとう』って思えるぐらい頑張ろうが今の理念なんです。
この業界を立派にしてやろうと言うのと、一緒に働く仲間、一緒に幸せになってもらいたい。大きく2つなんです。それが今の経営理念。

入会のきっかけ

TAT創設者の代表取締役の髙野直樹が倫理法人会に入会。
ほどなくして「西宮に倫理法人会を創るぞ!」と宣言。
言い出したら周りが何をいっても聞かない、止まらない。
会場も決定しスタートまであと2週間のところで仕事でアメリカ出張へ。
残された当時の専任幹事、副会長、幹事は大慌てをして準備をし
みなさんのおかげで髙野直樹が初代会長としててんやわんやでスタート。
入会をきっかけに全社朝礼を開始。職場の教養もスタッフ1人1人に配り、毎日業務開始前に朝礼を行い職場の教養を読み感想を共有共感。
大人数の前で話しをすることは経験としてもあまりないことだが、TATスタッフは人前で自身の気持ちを伝えることができるようになった。
しかしコロナ過でテレワークが増え、以前のようにスタッフ全員で集まり朝礼をすることは無くなったが、部内では今でも朝礼を行っており、そこで職場の教養を使っている。
よい感想だけでなく、時には厳しい感想も飛びかい様々な感想、個性を引き出して笑いありで楽しく使用している。
転機となるような学びは?入会してよかった?
創業時大事にしていたコアな考え方が薄れて、社会に迎合していた時期があるんです。意思決定にしても「普通の会社ってこうしている」にあわせて、手法を変え、意思決定をしていました。でも実は「もっと自分たちのやり方でお客様の役に立っていこうぜ」「楽しくやろうぜ」が原点だったはずなんですけど。
僕は26歳から経営に携わるようになりましたが、会社の業績が伸びていく過程の中で、いつしか社会の常識に迎合するようになっていました。かつては自由だった社風が一変し、私自身もスーツにネクタイを締め、ジーパン禁止といった服装規定や、フレンドリーにあだ名で呼び合う文化を廃止して「さん付け運動」を行うなど、本来のTATらしさを失っていきました。結果、社内から活気が失われ、業績は3期連続の減収減益という深刻な事態に陥りました。
この危機を乗り越えるため、営業力や商品力の強化といった一般的な答えはなく、会社の根幹ある「企業文化」に問題があるのではないかと考え、ヒントとなったのは、ユニークな経営で知られるアメリカ最大のLCC(格安航空会社)である「サウスウエスト(SouthWest)」や靴のネット通販会社「Zappos(ザッポス)」といった企業のあり方で、私は会社の低迷は、社会に迎合することが自分たちらしさを失ったことが原因だという仮説を立てました。
そこで全スタッフに「会社のどこが好きか」というアンケートを実施し、アンケート結果をもとに幹部合宿を行い、TATの魂ともいえるコアバリューを「LOVE・ENJOY・WOW」「愛情がすべて・楽しくやろうぜ・喜びと驚きと感動を」 と再定義しました。
コアバリューとはもっとも大切にしている価値観で、価値観によって育まれた企業文化であり目には見えない私たちの強み。そしてそれがまさにTATらしさなんです。
誰にも真似することが出来ない私たちの最大の強みなんですよ。
そして2017年、業績が最も悪かった年に父 髙野直樹から僕に代表交代となってから、社会に迎合するのをやめ、服装規定などをすべて撤廃。あだ名文化も復活させ、会社のイベントも「経営指針発表会」という堅苦しい名称から「MOKフェス(みんなの想いが形になるフェス)」へと変更しました。自分たちらしい、本来あるべき姿を取り戻すことに舵を切ったのです。結果、会社の業績は劇的なV字回復を遂げました。

倫理法人会で学ぼうとしている経営者のみなさんへのアドバイス

やっぱりこのネイル業界って黎明期。ラッキーだったのはインターネットですね。振り返って全て分析するとなんですけど、TATは2000年に会社設立なんですけどAmazonと同期なんですよ。インターネットの勃興とともに事業を発展できたのは、結構タイミングとしては非常にラッキー。
比較すると美容業界の同じ立ち位置の美容ディーラーさんって、すごい歴史長いんで、ものすごいアナログなんですよ。僕らは使えるもん使うスタンスなんで、最初から結構、ITインターネットに対してフレンドリーというか。
インターネットやスマートフォンで買い物ができる時代。それがラッキーポイントの一つですね。25年前の2000年ぐらいにはほんとにネイルサロンはポツポツしかないし、ネイリストという職業も確立していない。「ネイリスト?何それ?」の時代なんです。そういう人たちの役に立って、そういう人たちが、ネイリストになってよかったな、世の中からすごい職業ですね、立派な職業ですねって言ってもらえるような立派な職業にしたい。今もまだまだなんですけど、やっぱり所得的にも、働く環境的にも。それをもっといい業界にしたいなという思いがありますね。
『破天荒!―サウスウエスト航空 驚愕の経営』この本がきっかけになったというか。前代表の髙野直樹は起業決意したと言っているんですけど、ちょっと変わった会社なんです。事業自体はローコストキャリア。ビジネスモデルとしては、機体を1機種に絞ること、整備とかコストがかからない。操縦士も色々じゃなくて1機種覚えればいい。短距離しか行かない、座席指定しないとか。だから安い。ほんとにローコストキャリアの走りの会社なんですけど。
何がすごいかというと、ビジネスモデルよりも、コアバリュー企業文化なんです。企業文化が最も独自性を生んでいる。ハーブ・ケレハー創業者、僕大好きなんです。
いろんなエピソードがあるんですけど、とにかく従業員を信頼して、とにかくバリューに沿っていれば、何でもいい、何してもいいんです。
有名なエピソードはYouTubeとかに上がってるんですけど、黒人の男性キャビンアテンドさんが5便目の勤務をしていてつまらないからちょっと手拍子と足踏みお願いしますって言って、ラップ的なアナウンスをし始めた。シートベルトしてくれとか、飲み物は有料だよとか。お客さんもノリノリでこう手拍子、足踏みをやって楽しんでいる。
そういった 各々の判断は本人の意思でやれる。いちいち上司や会社に確認を取らない。それが結構、何て言うか、本質。
とにかくお客さんに喜んでもらったり、楽しんいただけると思ったら、やっていいよと。
ここで思うのが一般的な会社は一部の顧客からクレームがあったらどうしようとか。
サウスウエスト航空は一貫してて、そういうことが万が一あったら、「うちはこういう会社なので他の航空会社をご利用ください」と。
必ず従業員を護る。だからこそ従業員は安心してそういう行動が取れると。これ僕らも気をつけないといけない。いつも言ってるんですけど、どっちが大事かをはっきりさせたらぶれない。
いつもグランドキャニオンに例えてるんですけど。グランドキャニオンは、毎年数名の方が崖から落ちて死んでいる。だけど彼らは過度な手すりを設置しないと。それはなぜかというと、数名死のうが、何百倍も景観を楽しむ人のために我々は存在していると。
これね、企業が犯してしまいがちで、ほんの一部の事故とかミスに合わせて、全体をギクシャクさせる。これあってはならないというそれを教えていただけるストーリーですよね。
今そういう会社も、行政も多いですもんね。だからやかましいとか、クレームがあったとしてもたった1人のクレームの為に会社の方針を変えない。
何が大事かというと、経営理念とかもそうなんですけど、たとえ唱和できなくても、このように振舞ってさえいればいいなと思っているんです。エピソード知ったら、「あ、だからうちの会社はこうなんだ」って納得すると思うんです。日々このように振舞ってくれてさえいれば、いいんじゃないかなと。
今後のビジョン
この経験から学んだのが、経営学者のダニエル・キム氏が提唱する「成功循環モデル」の重要性です。これは目先の「結果の質」を求めるのではなく、まず社員同士の「関係性の質」を高めることが良い、「思考の質」と「行動の質」を生み、最終的に良い結果に繋がるという考え方です。
また、TATは「Viva属人化」を掲げています。
僕やったら、あなたしかいない、代えが効かないって言われた方が嬉しい。あなたの代わりは誰でもできるよって言われるのか、あなたがいてくれて良かったって言われるのか、どっちが嬉しいかって言ったら、明白じゃないですか。だったらViva属人化と。じゃあこの人がいなくなったらどうするんですかという問いがあるとしたら、いなくなったら次の人が次の人の得意な方法でやればいいと。
僕のコピー人間!?絶対無理やん。もう親父もそうやし。僕は僕の方法でやってるし。
もし僕がいなくなっても、次の経営者は、次の経営者なりのやり方をやるはずだと。
ま、これがViva属人化。一般とはちょっと違う。
一般的に企業は業務の標準化が推奨されますが、それは離職率が高い会社が誰でも業務を回せるようにするための策に過ぎないと考えています。「あなたの代わりはいない」と言われる方が、働く喜びを感じられるはずです。私たちは、社員一人ひとりの個性が最大限に発揮される組織を目指しています。
会社のビジョンは、このネイル業界を立派な業界にし、共に働く仲間を幸せにすること。そして、事業ビジョンとしては、ネイル業界の「インフラ」となることを目指しています。
現在はネイルの材料を販売することが主ですが、将来的には、出店のためにネイリストが必要とするあらゆるサービスをワンストップ提供できる存在になりたいと考えています。
実現のために、従業員持ち株会などを通じて、社員も会社の所有者となる仕組みを構築しています。所有・経営・労働が一体となり、全員が自分事として会社の成長に関わっていく。それが私の理想とする会社の姿です。
元々は社会に適合できないと感じていた私ですが、自分たちの「好き」や「らしさ」を信じ、それを貫いたことで会社は再生することができました。これからも、世間の常識に囚われることなく、自分たちらしいやり方、業界と仲間の幸せに貢献していきたいと考えています。

編集後記
お客様、取引先様のこともしっかり考えてくださっていますが、本当にスタッフのことを大切にしてくれています。選択する際に、「どちらを選んだらスタッフのみんなは幸せかな?」と私たちのことをかんがえてくれています。
働かせているスタッフが誇れ、自慢できる会社です!!
<取材> 辻 太志/大阪尼崎倫理法人会
<撮影> 幸合同会社 代表社員 澤 利一/千里中央倫理法人会 幹事
2025年10月 No.323 掲載