ヒグチ鋼管株式会社 代表取締役 樋口浩邦氏にインタビューしました。

▼企業情報
社名:ヒグチ鋼管株式会社
創業:昭和45年1⽉10⽇
設立:昭和48年12⽉5⽇
役職:代表取締役
住所:⼤阪市平野区加美北4− 6− 21
URL: https://www.higuchikoukan.co.jp/

▼事業内容
鉄および非鉄の鋼管・鋼材・鋼板などの金属材料を加工・販売する流通卸

会社の誕生

私の⽗が会社を創業したのは、1970年(昭和45年)1⽉10⽇。場所は⼤阪市平野区加美9丁⽬、現在の第2⼯場のある場所でした。まさに「裸⼀貫」からの出発で、頼れるものも資⾦もない中、⾃らの⼒と情熱で道を切り開いたのです。
⽗は⾹川県の出⾝で、⾼校を卒業後、集団就職で⼤阪に出てきた⼀⼈です。最初に勤めた中川鋼管株式会社という会社で10年間修業を積み、28歳で独⽴を果たしました。時代背景として鉄鋼業が盛んだったこともあり、⾃らの信念に従って事業を⽴ち上げた⽗の姿勢には、今もなお深く感銘を受けています。
私は⼤学を卒業後、父親の会社の主要仕入れ先である丸⼀鋼販株式会社に5年間勤め、業界の基礎を学びました。その後、⾃然な流れで家業に戻りました。特に強い覚悟があったわけではなく、「⽤意された路線に乗っただけ」というのが当時の本⾳です。しかし実際に会社に⼊り、ものづくりの現場に触れ、⼈の⼿で作られた製品が社会を⽀えていることを実感する中で、次第にこの仕事に惹かれていきました。気がつけば、この業界に⼈⽣を注いでいたのです。

入会のきっかけ

倫理法⼈会との出会いは、今から約10年前のことでした。北区の会員で写真家の⼭⽥さん、初代会⻑の上能さん、当時会⻑だった浜野さんが私の会社にお越しになり、熱意を持って⼊会を勧められました。まさに「取り囲まれた」という表現がぴったりで、その場の勢いもあり、⾃然と⼊会することになったのです。
実は去年、私が懇意にしている「ランチェスター経営」のコンサルタントである佐藤元相(もとし)さんを倫理法人会にお誘いし、入会されました。彼からは、地域戦略・商品戦略・顧客戦略・営業戦略・顧客維持戦略という五⼤戦略を学びました。その内容は、⾃社で直感的に取り組んできたことと見事に一致しており、理論的にも正しかったんだと、大いに勇気づけられました。

転機となるような学びは?入会してよかった?

私の人生にとって最⼤の転機が訪れたのは、50歳のときでした。それまでの私は、⾃分が先頭に⽴ってぐいぐい引っ張っていく「がむしゃら系」のトップダウン型経営をしていました。しかし、社員が受け⾝になり、組織に活気が失われていく中で、「このままではいけない」と限界を感じ始めていたのです。
そんな折に出会ったのが、仏道実践と「⼈を⼤切にする経営」でした。坂本光司先⽣の講演で、「⼈を⼤切にする会社こそが、永く続く会社になる」という⾔葉を聞いたとき、「これや!」と直感しました。⼈の話を聞いて感動し、⾏動が変わる。感動とは、⽬線の⾼い⼈の話に⼼が震えることだと思います。
そこから私の経営スタイルは⼤きく変わっていきました。キーワードは「信じ切る」こと。以前は疑う気持ちの方が勝(まさ)っていたと思うのですが、それでは誰も信⽤できない組織になってしまう。「信じ切る」と心に決めた瞬間、社員に権限を徹底的に委譲し、情報は全てオープンにし、経営の透明性を⾼める⽅針へと舵を切りました。
この変化には10年の歳⽉がかかりましたが、結果として『⽇本でいちばん⼤切にしたい会社⼤賞』を受賞するまでに⾄りました。これは私⼀⼈の⼒ではなく、信頼される風土で、社員⼀⼈ひとりが思う存分に⼒を発揮したからこその成果です。
また、この「信じ切る経営」をさらに深めていく過程で最近出会ったのが、中国の古典『貞観政要』です。唐の太宗とその⾂下の対話を通じて、リーダーのあり⽅や組織運営の本質が語られており、「忠⾔は⽿に逆らえども⾏いに利あり」という⾔葉などは、まさに私の経営に通じるものでした。誠実に⽿を傾け、諫⾔を受け⼊れる姿勢が、強い組織を作る。まさに『貞観政要』は、私にとっての座右の書であります。

今後のビジョン

私が⽬指すこれからの経営ビジョンは、会社を「個⼈のもの」から「社会の公器」へと転換していくことです。私はこれを人を大切にする経営の実践を通じて具現化してまいりました。社員が主役となり、主体的に働き、成⻑できる組織を築くことに今まさに注⼒しています。

⽇本において100年企業に到達できるのは、わずか1万社に3社という⾮常に狭き⾨です。その狭き門をこじ開ける鍵は、2代⽬から3代⽬への事業承継にあると考えています。創業に必要な短距離⾛的な⾛りだけでは、持続可能な組織にはなりません。創業の次のステージは守成です。次世代に経営のバトンをつなぐ駅伝のような長距離走が必要になってきます。そんなバトンをつなぐ⾛りができるよう、社員を信じて権限を与え切り、任せ切る覚悟が、世の社長には求められます。

私は今、次の世代から頭角を現す社員の出現を期待して、経営からは⼀歩引いて⾒守り、支援する⽴場に回っています。経営者の最も大切な役割とは、社員が⾃ら考え、責任を持って⾏動し、挑戦できる風土をつくることです。それが、本当の意味での「信じ切り任せ切る」経営だと思っています。もっと言うと、「与え切る経営」です。社員に役割を与え、責任を与え、挑戦の場を与える。そうすることで信頼の輪が⽣まれ、社員の力で会社全体が活性化する。私は、仏道実践から、この「⼈を信じ切る」という経営の本質を学んだような気がします。
仏道実践、人を大切にする経営実践、倫理法⼈会での学び、『貞観政要』に⾒る古典の智恵、等々——それらすべてを統合させ、「信じ切る⼒」で次の未来を切り拓いていく。それが、私が描くこれからの経営のかたちです。


【取材 粟野友康/大阪北区倫理法人会/幹事】
【撮影 01(イチ) 代表者 山岡滉太郎/新大阪倫理法人会/幹事】

後継者を指名するのに10年、伴走して10年、合わせて育成に20年必要であるとの話がとても印象的でした。創業から三代100年企業をめざしておられるという視座の高い経営には、感動すら覚えました。
樋口さんお時間を頂きありがとうございました。

【樋口浩邦氏の所属単会/大阪北区倫理法人会】
2025年9月掲載

※記事中の所属や役職およびインタビュー内容は、取材当時のものです。